2011年11月8日火曜日

ジャックのこと



一昨日のブログで私の言葉が足りず、ジャックが一回噛んだだけで簡単に安楽死させられることになったと誤解を招くような書き方をしてしまいました。事実はそうではありません。今日はジャックのことをもう少し詳しく書いておこうと思います。長いブログになると思います。

ジャックが人を噛んだのはこれが初めてではなく、保護されてから1カ月半で4回目でした。パクリと噛むのではなく、攻撃的な噛み方でした。

普段はおだやかで唸りも吠えもしないし人懐こい。なのに、何の前触れもなく、突然興奮して攻撃して来て何度も噛みつく。理由はわかりませんでした。

私は、噛まれた人が理由に気が付かなかっただけで、噛んだのには必ず理由があったはず、噛む前触れも見逃していただけ、そう思っていました。

二人噛まれた時点で安楽死の話が出ましたが、その時はジャックにもう一度チャンスを与えることになりました。噛まれた一時預かりのボランティアさんが、ジャックを殺さないで、チャンスをあげてほしいと強く頼んだからです。彼女は噛まれた後も変わらない愛情を持ってジャックに接していました。みんながジャックを助けたいと思っていました。散歩ボランティアでジャックに会う度に、ジャックの表情や態度がいい方向に変わって行くのがわかりました。みんなジャックの問題を矯正できると思っていました。

トライアルに臨んだ里親さんはジャックが人を噛んだことも全部承知の上で、それでもジャックを家族に迎えたいと言って下さった、犬飼育の経験のある、ジャックにとってこれ以上の適任者はいないようなご夫婦でした。

ご近所の方だったので、ルピコナの散歩で、ご夫婦がジャックを散歩しているのを何回か見かけました。ジャックは穏やかに嬉しそうに歩いていて、やっと犬生を楽しみ始めたように見えました。先住犬との相性も問題がなく、トライアルはきっとうまくいく、そう思いました。

実はトライアル開始後すぐ、ジャックが里親さんのお手伝いさんを噛みました。噛まれたお手伝いさんは里親さんにジャックを飼わないでくれと抗議しましたが、里親さんはジャックのことを諦めず、トライアルを続けて下さいました。里親さんはジャックのことが大好きでした。

1週間経ち、ジャックが里親さんを信頼し始めたと感じられるようになった矢先、ジャックが突然里親さんをひどく噛みました。攻撃して来る噛み方でした。体格のいいご主人が倒されました。噛んだ理由はわかりませんでした。

ジャックの幸せを願っていた里親さんご夫婦はどんなに悩まれたことでしょう。手放すのは辛い決断だったと思います。それまで従順だったジャックが突然攻撃して来たショック、恐怖、自信喪失。ジャックは犬舎に返されました。保護主さんはジャックを安楽死させることを決めました。

一昨日のブログを見て下さった多くの方と同じように、私もずっと考えていました。どうしてもジャックを殺さなければいけないの?もう一度チャンスをあげられないの?どうしても?本当にどうしても?

昨日の朝、ジャックの命の期限は午前8時でした。沢山の疑問が頭をぐるぐる回っていました。本当にジャックはあと数時間で死ななければならないの?どうしても救えないの?私にできることは本当にもう何もないの?このままジャックを死なせていいの?泣いている私をルピコナが心配そうに見ていました。

ジャックは人を噛んではいけないと教えてもらっていないのです。私がルピタに教えたように、私がコナに教えたように、攻撃してはいけないこと、攻撃する必要がないことをジャックに教えたい。教えてもらえないまま命を絶たれるのはジャックにとって不公平だと思いました。人に唸ったり、吠え掛かったりするルピタだってこんなに幸せに生きている。従順で人懐こいジャックが幸せに生きられないはずがない。家でジャックを預かるのは無理だと決めつけていたけれど、本当に絶対に無理?ルピコナと別の部屋にして、必要ならマズルをつけて、そうしたらジャックを家で預かれるかもしれない。うまくいくかどうかわからないけど、試してみなければわからない。ジャックの命が繋がるなら、私がジャックを引き受けよう。

そう思ったらいてもたってもいられず、安楽死を止めてもらうため犬舎に車を走らせました。ジャックの命の期限まであと30分でした。

安楽死を中止してほしい。まだ試せることがあるのにそれをやらずに死なせることはできない。私にジャックを引き取らせてほしい。私の気持を伝えました。

その時、安楽死を行う獣医師が到着しました。事情を知った獣医師は、安楽死は急がないからと言って、ジャックについて私と話す時間を作ってくれました。

ジャックの噛みつきはSNAP(パクッと噛みつく)ではなく、ATTACK(攻撃)であること、攻撃は理由なく発作のように突然始まること、普段はおだやかで攻撃のスイッチが入る前兆がないため咬傷事故を防ぐことが難しいこと、突発的攻撃性のある香港のスプリンガースパニエルの事例、矯正を試みたが問題が酷くなり親子3人がひどい咬傷を負った事例、ジャックの攻撃性をトレーニングで矯正することは極めて困難であること、私がジャックと暮らすことの危険性、ジャックが再び誰かを噛む可能性の高さ、再び怪我人を出すことについての私の責任などを獣医師は私に説明してくれました。

それでも私がジャックの命を救いたい、ジャックを引き取ると言うなら安楽死は中止する。私がジャックを家に連れて帰っていい。どうするか私が決めていいと言われました。

その瞬間、ジャックを生かすか殺すかは私の決断に委ねられたのです。

考える時間を与えられました。ジャックと散歩に行きました。ジャックと歩きながら獣医師に言われたことを考えて、考えて、考えて・・・。

何も知らないジャックはのんびりと私の横を歩いていました。

私はジャックの命を消したくなくて、ジャックを全部丸ごと引き受ける覚悟で犬舎にジャックを迎えに行ったのです。そして私の望み通り、ジャックを連れて帰っていいと言われたのです。そうすればジャックは死ななくて済むのです。

それなのに、どうしても、どうしても、どうしても私はジャックを連れて帰ると言うことができませんでした。「私がジャックを連れて帰ります」喉まで出かかった言葉が鉛のように重く胸に沈んで、代わりに私の口から出た言葉は「I'm sorry, Jack」 泣きながらジャックにごめんねを言うことしかできませんでした。

ジャックを助けたい一心でジャックに関わって来たのに、私が下した決断はジャックの命を絶つことでした。辛い辛い、身を裂かれるような決断でした。先に安楽死の選択をした保護主さんの心の痛みが初めてわかったような気がしました。

ジャックは、ジャックが一番懐いていたボランティアさんに抱かれて大好きなチキンを食べながら苦しむことなく永遠の眠りにつきました。

ごめんなさいジャック。どうか、どうか安らかに。